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宮崎地方裁判所 昭和55年(レ)8号 判決 1984年4月16日

控訴人

島田常七

右訴訟代理人

佐藤安正

被控訴人

横山喜八郎

右訴訟代理人

溝口喜文

藤本吉熊

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

(一)  控訴人と被控訴人間において、原判決添付別紙物件目録記載の土地上(同別紙図面表示の4、5、6、7、8、4の各地点を順次直線で結ぶ線で囲まれた土地上)に生立する杉立木につき、被控訴人が所有権を有することを確認する。

(二)  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

<前略>

第四立木の所有権について

一  被控訴人は昭和二六年本件係争地(B地)に杉を植林してきたことを同地が甲地として自己の所有に属することに加えて係争地上に生立する立木の所有権確認の請求原因としているものと解し得るところ、前認定第二の二(二〇)、第四の一のとおり被控訴人先代横山被次郎は杉の苗木を買求めてこれを昭和二六年三月一〇日頃本件係争地(B地)に植栽して管理しこれを成育させてきたことが認められる。

二ところで、地盤所有権やその土地を使用する権原のない者が動産である苗木を植栽したときには、地盤所有者がその苗木ないしこれが成育した立木が土地に従として附合されたものとして民法二四二条によりその所有権を取得する(最判昭三一・六・一九民集一〇巻六号六七八頁、最判昭三五・三・一民集一四巻三号八〇七頁参照)。

しかしながら、右の場合において苗木自体はもともと動産たる性質を有するものであるから、所有権が附合により失われたことを主張する者は地盤所有権が苗木所有者以外の他の老に属しこれが植栽に基づく附合により他の地盤所有者に移転取得された事実をいわゆる権利滅失事実として主張、立証すべきであると考えられる。

三控訴人は右附合の点を必ずしも明確に主張するものではないが、係争地(B地)を自己所有の乙地(開田二三〇〇番)であると主張しているので、このことは係争地が自己の所有地であり、同地上に植栽された杉苗木の所有権は附合により地盤所有者たる控訴人が取得するとの主張を含むものといい得ないでもないのであるが、前示第二の三において説示したとおり、福谷川の現在の流路が古くは北側にあつたものが変更して出来たもので、旧流路が係争地(B地)内に存在したとの疑が濃厚であるが、これが控訴人主張のように別紙第一図面記載の溝らしきもの及びその延長線上の旧流路跡に存在したものであるとの事実は、福谷川の流路変更を示す各証拠も、とくにその旧流路の位置となると、前認定第二の一(一)(二)、二(一)ないし(三)、(六二)の各事実を対比すれば福谷川旧流路の位置に相当するところは、前示松永全図(甲第五号証)、瀬戸ノ口(乙第五号証、甲第一号証の一)、開田(乙第二号証、甲第一号証の二)、長迫(甲第一号証の三)の各字図の相互間においても、またこれらと右控訴人が旧流路位置と主張する個所とはその長さ、形状、附近の土地(地番)の配置関係も必ずしも一致しないこと、流路変更を示唆する前示各証言も前認定第二の二(一一)〜(一三)、(一八)のとおり年を経る毎に区々であつたり、漠然としたものであり、同二(一三)(一八)二二のとおり本件係争地附近は古くから早くとも昭和二六年頃まで大雨の度びに福谷川が汜濫を繰り返しており、また同二(六二)のとおり係争地付近一帯にはその氾濫を物語る転石が広く散在しているうえ、前示沼らしきものは洪水などによる一過性のものに過ぎない可能性も少なくないことなどに照らすと、これを積極的認定するだけの高度の蓋然性を持つ証明があるとまではいえず、したがつて、その南にある係争地(B地)が控訴人所有の乙地(開田二三〇〇番)であるとの事実は本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

次に、控訴人は仮定抗弁として、仮りに本件係争地(B地)が甲地の一部であるとしても、控訴人は本田福江から乙地を買受けた昭和二六年一〇月その引渡を受け過失なく占有も始めたから、その後一〇年の経過により、また仮りに占有の始めに過失があるとしても二〇年の経過により時効取得により、所有権を取得した旨主張するが、前認定第二の二(二二)のとおり乙地の売買は登記簿上の地番のみによる売買契約で、現地による実地売買を行なつたものでなく、控訴人が本田玉光、同福江らの指示により係争地(B地)の引渡を受けたものでないことが明らかであるのみならず、また、前認定第二の各事実を考え併せても、控訴人が本件係争地(B地)を時効取得に必要な客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けて占有していたとは認められないことが明らかであつて、本件係争地(B地)に控訴人が右乙地買受け後杉を植栽し、以後自ら占有してきたとの控訴人主張に副うところがある原審証人島田本一の証言の一部、原、当審における控訴人尋問の結果の各一部は前示第四の一記載のとおり遽かに措信できず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

もつとも、前認定第二の(四一)(四四)(四五)(四七)(五一)(五六)によると控訴人は昭和三四年以降時折B地内に入り木払い、間伐などを行なつていたことを認めることができるが、山林の時効取得の要件としての占有は、成長した杉立木の年数回の見回り、木払いとか、数年に一回の間伐などをなしたのみでは足りず、適当な場所に標木を立てこれに目印をするなどしていわゆる明認方法を施すとか、立木周辺に棚を認けるなどのように他人が立木が何人の支配に属するかを知り得るような施設をなし、もつて排他的支配の意思を明確に表示するなどして客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けることを要すると解すべきところ、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない(最判昭四六・三・三〇判時六二八号五二頁参照)。

四以上のように本件係争地(B地)が控訴人の所有に属するとはいえないし、本件全証拠によるもその他の第三者の所有するものであるとも認めるに足りないから、これに植栽された被控訴人所有の杉苗木が他人所有の土地に附合されその所有権を失なつたものとはいえない。けだし、このように地盤所有者が認定できない場合には、そもそも民法二四二条本文所定の不動産の「所有者」が確定できないというほかないうえ、このような場合にまで附合により苗木の立木の所有権を失うものとすれば、植栽者は民法二四八条の償金請求権の実効が確保できないし、立木の所有者も不明となつて、盗伐を防ぐことができない等の混乱が生ずるからである。

また、かりにこのように地盤所有者の認定できない土地に対する苗木の植栽によつてもなお附合による所有権移転を認めるべきであるとしても、その場合には被控訴人の本件係争地(B地)の占有、杉苗木の植栽、管理は被控訴人においてその占有の始めに過失がないとはいえないにしても、民法一八六条により被控訴人は善意の占有者と推定されるところ、前認定第二の二の各事実に照らしてもこれを覆えし被控訴人が悪意の占有者であるとは認めるに足りないし、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

そして、善意の占有者は民法一八九条の趣旨に照らし、とくにこのような所有者、不詳地への附合については民法二四八条の附合による償金請求ができないことなどを考慮すれば民法二四二条但書を類推して同条但書所定の権原により附属させた場合に準じなお立木の所有権を保有すべきものであると考える。

したがつて、いずれの点からしても、被控訴人は本件係争地の杉立木につき附合によりその所有権を失うものでなく、同立木の所有権を有するものというべきである。

なお、控訴人が右杉立木の所有権を争つていることは弁論の全趣旨により明らかである。<以下、省略>

(吉川義春 竹江禎子 栃木力)

別紙(一)、(二)、(三)<省略>

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